フォーチュン広島の探偵白書:不良少年と先祖のお墓を探した調査

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ヤンキーとお墓を探した話

日本評論社『統合失調症のひろば』2021年春号に寄稿した記事の原文です。

タイトル:ヤンキーとお墓を探した話

午後8時過ぎ。最後の面談を終えて帰宅の準備をしていると、事務所のインターフォンが鳴った。
こんな時間に誰だ?インターフォンの画面を見ると、金髪の若い男性が所在なげに立っている。玄関ドアを開錠して入ってきたのは制服姿の高校生だった。金髪に左耳にはピアス、着崩した制服でひと目でヤンキーと分かる。

アポイント無しの飛び込みでまともな相談はほぼ無い。ましてや遅い時間に飛び込みで来る高校生の相談なんてきっとロクなもんじゃない。ったく面倒くさい!適当に話を聞いて、さっさと帰してしまおう。そう思いながら、高校生(A君:17歳)を面談室に通した。

「あの、明日、墓を探して欲しいんスけど!」
「ハカ?お墓のこと?誰のお墓なの?」
「ばあちゃんの墓っス!」
「亡くなられたおばあ様のお墓?」
「いえ、ばあちゃんは生きています!え~と、どっから話せばいいか…」
ロクなもんじゃないと思っていたA君の相談は、予想と違って真摯な内容だった。

A君には父親がいない。A君の母親は18歳のときに未婚でA君を出産した。だから父親のことは何も知らない。
そして今は母親もいない。母親はA君が6歳のときに失踪した。母親に新しい彼氏ができて、A君が邪魔になったのだ。一人自宅の残されたA君は近隣の方からの通報を受けて警察に保護されたらしい。その後、埼玉に住む母方の祖父母に引き取られ大事に育てられた。

母親は18歳のとき家出をしてから祖父母と絶縁状態だが、数年に一度は金の無心の連絡はあるようだ。しかし、A君の様子を聞いてくることもなければ、居場所も教えてくれない。そして母親が作ったたくさんの借金を祖父母が肩代わりしたので、大変な思いをしながら返済をされたようだ。
そんな中、A君が10歳のときに祖父が急逝した。それからA君は貧しい生活を余儀なくされ、両親がいないこともあって、いじめの標的にされてしまう。そして非行に走った。中学生になると悪い仲間ができて、万引きや恐喝で何度も警察のお世話になり、いつも祖母を泣かせていたようだ。
ところが1ヶ月前に祖母が過労で倒れてしまう。A君は自分を責めた。そして悪い仲間とは縁を切り、献身的に祖母の看病を始めたのだ。

先日、祖母が病床で「ご先祖さまのお墓が気になる」と、A君に漏らした。
祖母は広島県の瀬戸内海にある江田島の出身で、早くに両親を亡くしており、一人いた兄も二十歳で亡くなった。祖母は知り合いを頼り上京して、職場で知り合った男性(祖父)と結婚。その後、祖父の実家がある埼玉県に移住した。上京してからは一度も広島に帰っていない。
祖母は「両親や兄が眠るご先祖のお墓はまだあるのだろうか」と気になり、A君に先祖のお墓のことを話したのだ。

A君は祖母の為にお墓を見付けて元気づけたいと思った。何より自分も先祖のお墓を見てみたい。そう思い立ったA君は貯めていたバイトのお金を握りしめて、学校帰りにそのまま広島行きの夜行バスに乗車した。市電とフェリーを乗り継ぎ祖母の故郷である江田島に向かったのだ。
祖母から「島」と聞いていたので、小さな島だと想像していたが江田島は大きな島だった。
祖母に聞いていたお墓がある地名は既に存在していない。インターネットで検索しても現在の住所地が分からない。地元の人に聞けばすぐに分かるだろうと思っていたが、誰に聞いても分からず、何の手掛かりも掴めなかった。明日の夜行バスで埼玉に帰らないといけないので、なんとか明日の夕方までには墓を探さないといけない。
途方に暮れたA君は『探偵なら探し出してくれるかも?』と思い付き、スマホで探偵社を検索して当社を訪ねたのだ。

A君は経緯を話し終えると、「明日の夕方までに墓を見付けて欲しいんスけど」と、懇願するような少し泣きそうな眼差しで真っ直ぐ僕を見つめた。ここまで話を聞いておいて、断るのは野暮だろう。幸い明日なら時間が取れるし、江田島は父の故郷でもあるので土地勘もある。快くA君の依頼を引き受けることにした。

「あ、あと、自分で墓を探し出そうと思っていたんで、あんまお金持ってなくて。帰りのバス代とか引くと、1万円くらいしか残んないんスけど、料金は1万円で足りますか?」
足りるわけないだろう!と言いそうになったが、それは飲み込んだ。大人だし。
「1万円ね。大丈夫、足りるよ」
「マジっスか?うわぁ~助かる!良かったぁ~!」A君はホッとした表情で、椅子にもたれかかった。
素直に喜ぶA君の姿を見て、僕は彼を見た目だけで判断したことがとても恥ずかしくなった。

翌朝6時にA君と合流して、車で江田島へ向かった。
「ずいぶん早い時間に向かうんスね?」
「あぁ、江田島のJAに勤務されているKさんという過去の依頼者さんがいてね。朝8時から時間を取ってもらえることになったんだよ」
「え―っ!江田島のJAに知り合いがいるんスか?もう鬼に金棒ッスね!」
A君は僕を鬼に例えることも厭わない始末で、朝からハイテンションだ。

江田島に向かう車中で、気になっていたことを聞いてみた。
「なぁA君、お母さんに会いたいかい?探してあげようか?」
A君は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに困ったような笑顔で首を振って「いえ、いいっスよ!」と答えた。
「でも、おばあちゃんに万が一のことがあったら、お母さんがいた方が良いんじゃない?」
「う~ん、ばあちゃんは縁を切ったって言っているし…」
「A君はどうなの?会いたい?」
「オレも会いたくないっスね~かあちゃんもオレのことなんてどうでもいいみたいだし…」
それからしばらく沈黙が続いたが、「これ美味いっスよ♪」と、A君は膝の上に置いていたコンビニの袋からお菓子を差し出した。袋の中にはお菓子がたくさん入っていた。
「おやつは300円までだって言っただろう」
「遠足かよ!でも楽しいッス!潜水艦なんて初めて見たし!」

時間より早く江田島のJAに到着したが、既にKさんは玄関前で待ってくれていた。
「ご無沙汰しています。すみません、お忙しいのにお時間取っていただいて」
「いえいえ、重川さんに恩返しできるなら嬉しいです」
Kさんは応接室で江田島市の地図を広げて、「言われていたお墓の場所ですが、おそらくこの辺りだと思います」と、地図上に赤ペンで大きく丸を書いた。
「結構、広いですね。この範囲を探すとなると、一日では無理そうだなぁ」
「そうですね~他に手掛かりでもあれば、もう少し絞れると思いますが」
「A君、おばあちゃんはお墓の場所について何て言ってたの?」
「え~と、ばあちゃんが覚えているのは、」
・お墓は山に登って20分ほど歩いた場所にある。
・その山には海沿いの細い道から入る。
・山の入り口の近くに小さなガソリンスタンドがあった。
・急な坂道で、周りはミカン畑だった。
お墓はA君の祖母が生まれる前にはあったらしいので、少なくても70年以上は経過している。山奥に建てられたとなると、おそらく個人墓地で無許可墓地の可能性が高そうだ。そうなると墓地台帳にも記載がなく、行政も把握していないと思われる。

「小さなガソリンスタンド…その住所地にはガソリンスタンドは無いなぁ」Kさんは頭を傾げた。
「田中さんとこのガソリンスタンドじゃないんか?」近くで話を聞いていた支店長さんが地図を覗き込み、「田中さんは30年前までガソリンスタンドを経営しとったんよ」と、地図上のある場所を指さした。「今は駐車場になっとるところよ。そうなると、Hさんのミカン畑がある山じゃろ」

早速、A君とその山へ向かった。確かに祖母の情報通りに細い道があり、急な坂道だ。僕はスーツに革靴で来たことをとても後悔しながら、滑らないよう気を付けて山を登った。汗だくになりながら20分ほど登ったがお墓は見付からない。それから10分ほど登り続け、諦めかけていたところ、小さなお墓を発見した。
もう40年以上も放置されていると聞いていたので、汚れた墓を想像していたが、驚いたことにそのお墓はとても綺麗だった。しかも、お墓の花瓶には枯れてはいたがお花も活けてあった。

「本当にこのお墓で合っているかい?」
「たぶん、合ってます。彫られている名前もばあちゃんが言っていたのと同じだし」そう言ったA君もお墓の周りの雑草が綺麗に抜かれていることに戸惑っていた。
「とにかく、ばあちゃんに墓を見せてみますよ」と、A君はビデオ通話にして祖母にお墓を見せた。
お墓の映像を見た祖母は涙を流して喜んだ。ご先祖のお墓で間違いなかったようで僕とA君は安堵した。スマホの画面をお墓に向けて祖母はしばらく手を合わせていた。A君は誇らしいような顔でその様子を見守っていた。
「でも、誰が綺麗にしてくれているのかしらね~」涙を拭きながら、祖母はつぶやいた。

JAに戻り、お墓を見付けたことを報告すると職員さん達から歓声が上がった。
「この辺りはHさんの山だから、お墓のことを聞いてみましょう」KさんはHさんのミカン畑まで僕らを連れて行ってくれた。
ミカン畑で作業をしていたHさんに事情を伝えると、Hさんは驚いた表情でA君に近づいた。
「ほぉかぁ~!あんたぁTさん(A君の祖母)の孫かいの!Tさんは元気にしとってか?」
「え?ばあちゃんのこと知っているんスか?」今度はA君が驚いた顔になった。
「ほぅよ、Tさんとは縁戚なんよ。こまい頃(子供の頃)はTさん家にも遊びに行ってのぉ」
「そうなんスか!あの、ばあちゃんが墓のことを気にしてて、それで墓を探しに来たんです!」
「おぉ、あの墓か!墓はわしがちゃんと綺麗に手入れをしちょるけぇ、心配しんさんな(笑)あんたはどっから来たんね?」
「昨日、埼玉から来ました!」
「遠いところからよう来んさったねぇ。優しい孫がおってTさんは幸せ者じゃのぉ」
「いや、全然スよ。今まで散々ばあちゃんに迷惑かけて…」
「今度はTさんと一緒に遊びに来んさいや。いつでも歓迎するけぇ(笑)」
A君は溢れた涙を拭いながらHさんに深々と頭を下げた。Hさんは笑ってA君の肩を優しく叩いた。

予想より早くお墓を発見したので、搭乗する夜行バスの時間まで時間ができた。せっかく広島に来たんだからと、A君にお好み焼きをご馳走した。
「今回の料金って、1万円じゃ足りないスよね?」A君は財布から1万円札を取り出した。
「ん?お金は要らないよ。だってA君と契約書を交わしていないし。探偵は依頼者と契約書を交わさず調査をしたらいけないんだよ。だからお金は貰えない」
「へ?何で契約書を交わさなかったんスか?」
「だって、君と江田島までハイキングに行っただけじゃん(笑)」
「いや、でも…」
「まぁ、もし、今回のことでお礼をしたいなら、Hさんにお礼の手紙でも書いたら?お墓を守ってくれているしね」
「そうっスね!ちゃんとお礼の手紙を書きます!バイト代が貯まったら、今度はばあちゃんと一緒にHさんのところにお礼に行きますよ!もちろん重川さんのところにも!」A君は歯に青のりがついた笑顔でそう言った。
なかなか殊勝なことを言うじゃないか。

後日、事務所宛にたくさんのお芋と林檎が届いた。荷送り人はA君の祖母からだ。A君からのお礼の手紙も添えてあった。
その後、A君は高校を無事に卒業して、紳士服の企業に就職したらしい。いつか登山もできるスーツを見立ててもらおう。