フォーチュン広島の探偵白書:離婚して会えない息子の晴れ姿が見たい

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統合失調症のひろば寄稿「娘と結婚式に潜入した話」

日本評論社『統合失調症のひろば』に寄稿した記事の原文です。

タイトル:娘と結婚式に潜入した話

僕には一人娘がいる。娘はこの春、地元広島の大学を卒業して、東京で新社会人となった。寂しい気持ちもあるが、良い機会だと思う。いつまでも親元で暮らして欲しいというのは親のエゴだし、一人娘ということで溺愛していたため、一緒に住んでいたら、これからも甘やかせていただろう。

先日、娘が使っていた部屋を整理していると、娘が小学三年生のときの日記帳が出てきた。学校の課題のようで、日記の横には先生の感想が赤ペンで書かれていた。拙い文章を読みながら、こんなことがあったなぁと感慨に浸っていると、ある日の日記が目に留まった。
『今日は初めてお父さんの仕事の手伝いで、ビデオをとれたりしてすごくうれしかったです。なので、また、こういうことをしてみたいです。』
そうだ、確かにこの日は娘が初めて仕事の手伝いをしてくれた日だ。

今回は娘と一緒に調査をした話を紹介しよう。

「息子が結婚式を挙げるので、その様子を撮影してください!」
A子さん(50歳)の依頼を聞いて、僕はズッコケそうになった。「えーと…、結婚式の撮影ですか?それなら探偵ではなくて、プロのカメラマンさんに依頼された方が良いですよ」
「違うんです!息子の結婚式に潜入して撮影して欲しいんです!」A子さんは思い詰めた顔で依頼の経緯を話し始めた。

「私には25歳になる息子がおります。実は息子が3歳の頃に主人と離婚をして、息子の親権は主人が取りました。離婚してから主人、いえ、元夫は息子に一度も会わせてくれませんでした。私は毎月息子宛に手紙と僅かなお金を送っていましたが、息子から返事が来たことは一度もありません。先日、元夫と共通の知人から息子が結婚式を挙げると聞き、20年ぶりに元夫に電話をしたんです。どうしても息子の晴れ姿が見たかったので。しかし、元夫からは『いまさら母親ぶるんじゃない!息子はお前を忘れることで成長できたんだ!お前なんかを結婚式に呼べるわけはないだろう!結婚式場に近づいたら警察に通報するからな!お前のせいで結婚式が滅茶苦茶になるぞ!』と、言われました。どうやら、私が送り続けた手紙も、元夫は息子に渡さず処分していたようです…」

「…なるほど。では、その結婚式に潜入して息子さんを撮影すれば良いのですね?」「そうです!息子とお嫁さんの晴れ姿を撮って欲しいんです!」
「それで、結婚式はいつなのですか?」「3日後の日曜日です」「3日後!?すぐじゃないですか!」

早速、調査員を引き連れて結婚式が行われる場所の確認に出向いた。そこは海辺に建てられた貸し切りタイプのゲストハウスウェディング。ホテルで行われる披露宴なら会場にシレっと潜入して撮影するつもりだったが、このような貸し切りで行われる結婚式では招かれた客以外は入ることができない。
外からは中の様子が見えない造りになっており、式場を見下ろせるようなビルも近くに無い。海辺で行うなら船で近づいて撮影できるのでは?と思ったが、教会や披露宴は室内で行われるので、海からも見ることができない。そもそも何をするにしても時間が足りない。
「中に潜入しない限り、撮影するの無理っスよ?」調査員は結婚式場の高い壁を見つめながら呟いた。本当にそう思う…早くも途方に暮れてしまった。

結婚式当日、僕は礼服に身を包み結婚式場へと向かった。フリフリのドレスを着ておめかしをした娘と手を繋いで。そう、もう作戦もクソも無く、正面突破で潜入をすることにしたのだ。
式場の入口では若い女性二人が受付をしていた。僕は慌てたふりで、「すみませ~ん!ちょっと嫁の到着が遅れてて!もうそろそろ来ると思うんで、ゲストブックの記帳は嫁が来てからで良いですよね?招待状もご祝儀も嫁が持っているんで!」と、早口でまくし立てた。女性二人は顔見合わせて戸惑っていたが、勢いに押されたか、「えぇ、では、どうぞ中でお待ちください」と、にこやかに中に通してくれた。とりあえず第一の関門は突破できた。

待合室では40人ほどの招待客で賑わっており、大半は新郎新婦と同年代の若い男女ばかりだった。その中に高校生くらいの男の子が一人いたが、小学生の子供はうちの娘だけだった。親子連れなら怪しまれないだろうと娘を連れてきたのだが、逆に目立っていた。そそくさと部屋の隅に座っていると、店員の女性が僕を見て真っ直ぐと近づいてきた。えっ何で!?もうバレた!?心臓が高鳴った。店員の女性は顔を近づけると、「お飲み物は何にいたしますか?」飲み物のメニューを広げてみせた。僕は動揺を悟られないよう落ち着いてアイスコーヒーを注文した。喉がカラカラに乾いていたのか、それを一気に飲み干した。

間もなく、係りの女性が招待客を教会へ誘導し始めた。新郎達を撮影するなら前の方の席に座らないと。そう思いながら足早に教会へ向かっていると、【教会内では携帯電話の電源はお切りください。カメラ・ビデオでの撮影は禁止させていただきます】と書かれた注意書きが目に入った。えぇ~…
結婚式前夜、僕は娘にビデオカメラの撮影方法を教えていた。「ブレないようにしっかり両手で構えて全体を撮ってね。あと、ズームはゆっくりするんだよ」。A子さんから動画と静止画で撮影して欲しいと依頼されていたので、娘がビデオカメラ、僕が一眼レフカメラで撮影することにしたのだ。
娘に「教会に入ったら式の様子を撮影して」と小声で指示を出した。僕が撮影をしたら式場専属のカメラマンから怒られるかもしれないが、子供ならたぶん大丈夫だろう。娘は讃美歌を歌う新郎新婦を目の前で堂々と撮影していた。

誓いの言葉が終わり、今度は中庭へと移動をした。青空の下で大きなクラッカーを鳴らし、賑やかな音楽とライスシャワーで新郎新婦を大いにお祝いした。娘も楽しそうに花を投げてはしゃいでいた。僕も幸せな二人の様子をカメラに収めていると、なんだか温かい気持ちになり、緊張もすっかり緩んでいた。

「では皆さん、今から記念撮影を行いま~す!」高さ1mほどの台に乗ったカメラマンが大きな声を上げた。
カメラマンは娘を見て、「お嬢さんは可愛いからご新郎様、ご新婦様の間に入ってくださ~い」と声を掛け、その指示で係りの女性は娘を正面の一番前に移動させた。そう、招待客の中で唯一の子供である娘の存在はとにかく目立っていたのだ。「で、お嬢さんのお父様はその後ろにお願いします」今度は僕を娘の後へ誘導した。娘と僕を中心にして、その両脇に新郎新婦という配置となり撮影会が始まる。写真に写るのはマズいよな…と思いながらも、僕は親戚顔でカメラのレンズに笑顔を向けた。

記念撮影が終わると、「では、これから披露宴を行いますので、皆さま隣のレストランに移動してくださ~い」係りの女性は招待客をレストランへ案内を始めた。
レストラン!?これはマズい!招かれていない僕らに座る席なんてある訳無い!早く式場から抜け出さないと勝手に潜入したことが発覚してしまう!娘はそんな僕の気も知らず、「レストランだって!ケーキあるかな?」と、ぴょんぴょん飛び跳ねながらテンション高く聞いてくる。

どうやって抜け出そうか。潜入することばかり考えていたので、抜け出すことまで考えていなかった。焦りながら周囲の様子を窺っていると、突然、肩をポンポンと叩かれた。ビクビクしながら振り向くと、年配の男性が立っていた。
「あ、はい…?」僕は恐る恐る訊ねた。
「お兄さん、ずっとビデオカメラで撮影していたよね?」
やっぱり教会内で撮影したのがマズかったか!?それとも招待客じゃないことがバレてしまった!?不法侵入で通報なんてされたら、娘と一緒に警察署に連行されてしまう!いつか娘が結婚式を挙げたときに、花嫁から感謝の手紙の中で「父と私は他人の結婚式に潜入して、警察に逮捕されたことがあります(笑)」なんて、面白エピソードとして笑い者にされてしまう!
「えぇ、はい…撮影していました…」おずおずと答えると、

「撮影したものをダビングしてくれんかね~?」年配の男性は申し訳なさそうな笑顔でお願いをしてきた。
…!はぁー…、焦ったぁー……「あ~、はい!いいですよ!では、え~と…、送り先のご住所を教えてください!メモしますんで!」僕はしどろもどろになりながら、胸ポケットから携帯電話を取り出した。
「お兄さんは新郎さんのご親戚の方?私は新婦のおじです」年配の男性はお辞儀をしてきた。
「あ、はい!そうです!これからよろしくお願いします!いや、本当この度は良いご縁に恵まれて…」これ以上会話をするとボロが出てしまう、早くここから抜け出さないと!

送り先の住所を携帯電話のメモに入力しているとき、突然ひらめいた!そうだ!携帯電話だ!これで抜け出そう!
僕は携帯電話を耳に当て、電話がかかってきたフリをした。「今、どこだよ?もう式始まっているぞ!え、迷った?しょうがないな~、じゃあ迎えに行くよ」と、『道に迷った嫁から電話がかかってきた』感じを周りにアピールしながら、娘の手を引いて足早に出入口へ向かった。幸い係りの人に呼び止められることもなく、出入口へと辿り着いた。いざ外に出ようとしたが、出入口の大きな門は閉められていた。部外者が勝手に入って来ないように施錠しているのだろう。もう勝手に入っちゃっているけど。
門前に立っていた係りの男性に携帯電話を見せて、「すみません!嫁が近くまで来ているんですが、どうも道に迷っているので、ちょっと迎えに行ってきます!」と、またもや早口でまくし立て、急いで門を開けてもらった。外に出た瞬間、娘を引きずる勢いで、車を停めた駐車場へ突っ走った。

「お母さん来ているの?」「来ていないよ!」「?」
「ねぇケーキは?食べないのー?」「後で美味しいケーキ買ってあげるから!いいから走って!」「?」
車に乗り込み、一目散にその場を後にした。帰りに本屋で娘への報酬である『あさりちゃん』の単行本とケーキを購入して、今回のミッションは無事コンプリートした。

報告日、A子さんは結婚式の映像を食い入るように観ていた。息子さんの幸せな笑顔を見て、頷きながら微笑んで。娘が撮影した動画も良く撮れていたので安心した。
映像を全て観終わった後、A子さんは俯いて語り始めた。
「全部…私が悪いんです。私、息子が3歳のとき、職場の男性と不倫をして駆け落ちをしたんですよ。全て捨ててその男性を選んだのです。でも、その男性とは一か月で別れました。男性には妻子がいて、悩んだあげく妻子の元へ戻って行ったんです。元夫の言う通り、私は息子に会う資格はないんです…自業自得なんですよ…」
僕は掛ける言葉が見付からず、A子さんの懺悔をただ聞いていた。
「でも…、いつかは息子に会いたいと思います」A子さんはしっかりとした口調で誓った。たぶん、僕に言ったのではなく、自分に言い聞かせたのだろう。

この日記には先生から感想が添えられてあった。『美優ちゃんはお父さんのよきアシスタントだ。またお手伝いできるかもね』
いやいや、僕が本物の結婚式のカメラマンだったら子供に撮影なんてさせない。小学三年生の娘をアシスタントにしていたら怒られる。

後日、A子さんの許可を得て、年配の男性に約束した結婚式のDVDと写真を匿名で郵送した。
新郎新婦の親戚の皆さんは疑問に思ったことだろう。『ところで、記念撮影で真ん中に映っているこの親子は誰?』と。本当にごめんなさい。