依頼者様の婚約者である女性の住むマンションを張り込むこと4日。
依然として婚約者である女性の姿を捉えられない毎日が続きました。
医学生としての授業に追われ、なかなか家に帰れないことを考慮しても、少し不自然な状況でした。そこで、依頼者様に映像をチェックしてもらうことにしました。
その中で、生後間もない赤ちゃんを抱いた20代半ばの母親が、3、4歳くらいの2人の男児を連れている姿を見られ、「確かに顔の感じは似ています。髪の長さが短いので断定はできませんが、赤ん坊や子供がいなければ、彼女に間違いないような気もします。でも、赤ちゃんがいるはずがないのでやはり違います」という依頼者様の感想でした。
その女性は、我々がマンションの監視を始めて以来、毎日見かけていた母子です。その日も軽乗用車に乗り、マンションから出て行きました。
私たちが依頼者様からお預かりした写真は、「彼女と付き合い始めたころにプリクラで撮った」という1枚だけでした。彼女が写真嫌いのため、他にはないとのことでした。
そして、彼女の特徴として
①脚は長くスラッとしているが、体型はぽっちゃり型
②年齢は21歳
③身長は158センチ
④少し茶系のロングヘア―という事前の情報をいただいていました。
それらと依頼者様が気にかけた映像に写っている女性を照らし合わせたところ、①と③は該当していたものの、年齢的には20代半ば以上であり、髪はショートヘアであったことから、②と④は合致していません。
何よりも赤ちゃんと子供がいることで、初めから対象外の女性でした。
依頼者様は婚約者の彼女とは1年前から交際しており、赤ちゃんがいること自体、あり得ない状況だったからです。ただ、念のためにその母子を追いかけてみることにしました。
監視調査5日目、その母子はいつも通り朝8時過ぎに車に乗りマンションから出て行きました。
最初に向かったのは市立の保育園で、幼い2人の男の子を預けた彼女は、赤ちゃんを連れて再び車で走り出しました。
そしてとある雑居ビルへ着くと、赤ちゃんを抱いてビルに入って行きました。しばらくして彼女がビルから出てきたとき、赤ちゃんの姿はありませんでした。
その後、彼女は近くのスーパーの駐車場に車を停め、仮眠を始めました。10時を少し回ったところで、再び車を走らせ、市内のデパート駐車場に入り、大きな紙袋を持ってデパートの化粧室に姿を消しました。
20分後、ロングヘアの女性が、服から靴に至るまで垢抜けたファッションで化粧室から姿を現しました。
彼女とは全くの別人のようでしたが、手に持っていた紙袋から、そのロングヘアの女性と彼女が同一人物であることを確認しました。
このとき調査スタッフは、その彼女こそ依頼者様を欺いていた婚約者の女性であることを確信しました。デパートを出た彼女は、しばらくして30代の男性と合流すると、レストランで食事し、映画館へ行き、その後男性にデパートまで送ってもらい別れました。
彼女はデパートの化粧室で元の服装に着替えた後、赤ちゃんと2人の子供を迎えに行き、自宅へと戻りました。
報告の際、デパートの化粧室から出てきたロングヘアの彼女の映像を一目見るなり、依頼者様は「彼女だ!」「まさか、どうして!」と叫ばれるだけでした。
その後の調査で、彼女には夫もおり、マンションで一緒に住んでいることも判明しました。数カ月後、彼女は詐欺の疑いで県警に逮捕され、容疑を認めたということでした。