企業への嫌がらせの実態とは?

嫌がらせの対象は個人に限ったものではなく、企業もその被害の対象となる事案が増加しています。
今回お話するその内容は、横領事案と嫌がらせ事案が複雑に絡み合ったものでした。

約6年前、H総合企画会社に勤務する古参女性社員が会社のお金を流用している事実が、同僚であり今回の嫌がらせ行為をしていると思われるQ氏に知られる事となりました。
その後、この女性社員は横領が会社側に発覚するまでの間、Q氏に命じられるまま、Q氏の関与していた架空請求先や、Q氏の部下への残業代などの水増し支給をさせられていたというのです。
一件当たりの金額はせいぜい3~5万円くらいまでで、不自然さを感じさせない巧妙な手口であったらしく、全く分からなかったらしいのです。

この女性社員の横領が発覚し、その内部調査の過程でQ氏の着服横領が初めて明るみに出たということでした。
Q氏は横領発覚後も相当に抵抗し、その手口の巧妙さゆえに解雇処分までに半年くらいが経過した為、その間さまざまな会社内部の資料が持ち出され、欠落・紛失していたというのです。

そして解雇後、Q氏の会社に対する嫌がらせが始まりました。H社の得意先に対して、H社の不正(Q氏自身がしていた行為ではあるが、責任はH社にある)を暴露したり、中傷したりする悪質メールが送りつけられるようになりました。そして極めつけは、H社の親会社に対して、退社前に持ち出していた資料のコピーを添付したH社の誹謗中傷の告発文をあたかも事実であるかのような手の込んだ封書にして送りつけたのです。
これにより、H社のM社長とS部長は事実解明のため、親会社から何度も呼び出しを受け、膨大な説明資料を徹夜で何度も作るありさまでした。

ここでポイントとなるのは、告発を装っているのが懲戒解雇されたQ氏であることは間違いないが、犯人がQ氏であるという物的証拠がない点。
また、M社長らが親会社に呼び出され、何日がかりで作成した資料を説明してようやく承認されたと思ったら、タイミングよく新たな告発文と資料が親会社に届く為、またも同じ作業の繰り返しが続き、早急に根本原因である嫌がらせ行為を止めさせないと、得意先を始め親会社の方もH社に対して何らかの処遇を取らざるを得なくなっていくという点でした。

まず私が提案したのは、内部にQ氏へ情報を漏らしている人物の特定調査でした。
情報漏れを防がないことには、事態は悪化するばかりです。次に、Q氏が封書を投函する際、その郵便物を特定する作業を行うことです。なんとしても封書を出している人物がQ氏であることを立証し、刑事告発をしなければなりません。
私たちはM社長とS部長との打ち合わせを重ね、調査に着手しました。
徹底した尾行監視のため、1日24時間2チームの総勢6人による体制。そして、幸運にもQ氏宅の出入りをチェックできる場所が少し離れた高台にあったので、調査員はそこで監視を行う事にしました。Q氏が家から出てくるのが確認できると、高倍率の望遠レンズでその動作の一部始終を確認し、彼が愛用のバイクに乗ると、通りの両出口に待機している調査スタッフへすぐに連絡をして尾行開始という態勢です。

そして、監視開始から8日目にしてQ氏が中華料理店で、Q氏の部下で現在もH社の社員であるA氏と合流しました。その一部始終の撮影に成功し、会話も80%録音できました。特に資料を渡すようなことはありませんでしたが、H社は社員に対してQ氏との接触を固く禁止していたので、この時点でA氏はアウトです。

その後も調査は続き、さらにこの10日後、リュックを背負ったQ氏がバイクで家から出掛けました。
バイクでの尾行はプロの私たちでも難しいため、これまでに数回Q氏を見失ったことがありました。ただ、Q氏の行動パターンをある程度把握できていたのが、今回は幸いしました。路地から出てきたQ氏のバイクが、見当をつけて待ち受けていた調査車両の前を走行した後、1ブロック先の郵便ポスト前で停車すると、バイクから降りたQ氏が封書をポストへ投函しました。
これぞ待ちに待った瞬間でした。一部始終をアップで撮影した映像には印刷された宛名もはっきりと映っており、封書の特定に成功しました。
その後、Q氏は数週間後に逮捕されたとのこと。本当に辛い難しい事件でしたが、ネット社会になり世の中が変質してさまざまな嫌がらせが可能になったことをまざまざと知った事件でした。