フォーチュン広島の探偵白書:突然、家出をした夫。自殺の心配

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突然失踪したご主人を捜した話

日本評論社『統合失調症のひろば』2021年秋号に寄稿した記事の原文です。

タイトル:突然失踪したご主人を捜した話

-何もかも嫌になった!全て捨ててどこかに逃げたい!-
生きていく中で上手くいかないとき、辛いとき、苦しいとき、逃げ出したいと思ったことは誰にでもあるだろう。

探偵の業務に「人捜し」がある。失踪人・行方不明者など探偵社によって表記が違うが、ようは家出人を捜し出す調査のことだ。
依頼は家出人の家族からが原則。そして警察署の生活安全部に「行方不明者届」を届け出てもらうのも条件としている。たとえ家出人の彼氏・彼女だとしても依頼は受けない。恋人と偽ったストーカーの可能性もあるからだ。
ちなみに警察に行方不明者届を出しても、自殺や事件性がなければ警察が家出人を捜すことはない。例え職務質問等で家出人が偶然見つかっても、成人の場合は本人の意思が尊重されるので、家族に連絡をするだけで家出人を保護することはない。

ひとくちに家出といっても、その状況には様々な背景がある。夫婦や親子間などの家庭の問題もあれば、不倫相手との駆け落ちといった異性問題もあるし、会社を解雇された、倒産させた、お金を横領した、仕事のプレッシャーといった職業の問題もある。健康状態の悪化に絶望して、受験した大学に落ちて、借金苦で、放浪癖があるなど、案件ごとに原因も状況も違う。計画的か突発的かにもよるし、家出人が向かいそうな場所を特定するのは非常に難しいうえに、捜索活動は地道な作業となる。

捜索方法を詳しく書くと本一冊分くらいのボリュームになるので、ここでは簡単に説明させていただく。

まずは家族へのヒアリングから始める。家出をした理由や原因に見当がついているのか。家族との関係性もかなり突っ込んだところまで聞く。家出人の特徴は詳細に聞いていく。家出当時の服装はもちろん、身体的特徴、顔に目立つ傷やほくろがあるか、メガネの有無、髪型、有名人では誰々に似ているかなど。喋り方に特徴があるのか、口調や方言などのなまりがあるのか、靴のサイズ、歩き方、利き手、性格、借金の有無、交友関係、立ち寄り先、移動手段、持ち出したもの、特定の宗教を信仰しているか、趣味や嗜好など。趣味が関係あるのかと思われるかもしれないが、以前調査をした家出人は競馬が好きで、地方の競馬場で見つけ出したこともある。趣味も重要な手掛かりとなるのだ。質問事項は100個を軽く超えるだろう。

家出人のパソコン内のデータや閲覧履歴・検索履歴はもちろん、ゴミ箱の中やベッドマットの下まで確認する。それから捜索範囲のエリアを大きな円から小さな円に絞りこんでいく作業となる。

家出人の捜索で最も重要なのは、「家出原因の排除」だ。家出人を捜し出しても、再び家出をされてしまうと費用をかけて捜索した意味がない。根本となる原因を排除しないことには終わらないのだ。その原因は様々な問題が複雑に絡み合っている場合もあり、また当人はそれを解決するだけの気力も体力も残っていないことがあるので、我々もできる限りの協力をする。むしろ第三者の方が状況を正確に把握できるのだ。特に未成年の家出の場合は、本人よりも家庭や学校に問題があることも多い。家出人や家族とじっくり時間をかけて話し合い、解決の糸口を一緒に探していく。

序章が長くなったが、今回は突然失踪したご主人を捜した話をしよう。

「家出した夫(A男さん:35歳)を捜してください!」依頼者である奥さん(B子さん:34歳)は憔悴した顔でこう切り出した。
「3日前の金曜日に夫が失踪しました。数か月前から疲れている様子だったので、なんとなく何かあったのではと思っていました。夫は大人しい人で自分からあまり喋りません。最近では食も細くなっていたので、悩みがあるのではと聞いても『何もないよ』と答えるだけです。夫は毎朝7時30分に車で出勤します。3日前もいつも通り朝食を取り、スーツを着て出掛けていきました。私はその20分後に7歳の娘と5歳の息子と一緒に家を出ます。自転車で息子を保育園に送り届けて、そのままパートに向かいます。

16時の定時にパートを終えて、更衣室のロッカーに入れていた携帯電話を見ると夫の会社から不在着信がありました。夫なら自分の携帯電話から連絡するのに何で会社の電話から掛けたんだろうと疑問に思ったのですが、急ぎの用ならまた掛かってくるだろうと思い、掛け返すことなく保育園まで息子を迎えに行きました。息子と家に到着すると、今朝夫が乗って出たはずの車が駐車場に停められていました。体調を悪くして早退したのかなと思い、家の中を見ても夫は居ませんでした。

夫は几帳面な性格で、帰宅すると着ていたスーツのシワを伸ばして、ハンガーに掛けるのですが、その日に着ていたスーツとワイシャツはソファに脱ぎ捨てられていました。夫の身に何かあったのではと思い、携帯電話に電話をしてみましたが電源は切られていました。夫の会社から着信があったことを思い出し、電話をしてみると、同僚の方が『今日A男さんは出勤していませんが、体調が悪いのですか?本人に何度か電話をしても繋がらなかったので、緊急連絡先の奥様にお電話させていただきました』と言われました。夫はスーツを着て出掛けたのに、会社に行っていなかったのです。部屋をよく見てみるとテーブルの上に銀行通帳が置いてあり、当日に10万円引き出されていました。車内を確認したところ、助手席に会社の鞄、仕事で使うノートパソコンも置いたまま。もしかして家出?と思い、夫の部屋を物色すると、旅行用のバッグと私服が数日分無くなっていました。書き置きや遺書などはありません。

それでも夜になったら帰って来るかも。きっと何か緊急な用事で出掛けただけで、夕食時には帰って来ると信じて普段通り食事を作り待っていました。しかし、夜になっても帰って来ません。LINEにメッセージを送っても既読が付かないまま、携帯電話に何度掛けても電源は切られたまま。そして朝を迎えてしまい、義父母と一緒に最寄り警察署に相談に行きました。しかし、行方不明者届の受理はしてくれましたが、警察では何もしてくれないことが分かりました。未成年の家出と違い、大人の家出は事件性がなければ警察が捜査することはないようです。
子供達と義父母と僅かな望みを抱いて週末を過ごしていましたが、本日になっても夫は帰って来ません。お願いします!夫を捜してください!」
B子さんとA男さんの母親は悲痛な面持ちで僕に何度も頭を下げた。

A男さんの所持金は引き出したお金を合わせると12万円ちょっと。コロナ禍で海外に行くことはできないが、12万円あれば国内なら何処にでも行けるだろう。A男さんは生まれも育ちも広島県で、実家もすぐ近所にあり、他県に知り合いはいない。浮気やギャンブルをするタイプでもない。唯一の趣味は釣りだが、もう一年以上釣りに行っていないらしい。
面談後にA男さん家周辺の地図を見ると疑問に思う点があった。A男さん家は最寄りの駅まで徒歩で約5分。勤務先の会社も駅近くにあり、朝の渋滞を考えると車通勤より電車通勤の方がずっと早いはずだ。何故、車通勤なのだろう。

B子さんにA男さんの勤務先の同僚に連絡を取って欲しいとお願いしたところ、同僚のTさんが退勤後に時間を取ってくれた。B子さんも聞き込みに同伴することになり、一緒に指定されたファミレスに向かった。
Tさんの話では、A男さんはこの一年間上司から毎日のように責められていたらしい。コロナ禍の影響もありA男さんが責任者となっている部署の業績が悪化して、その責任を背負わされて悩んでいるようだった。
「でも、コロナ禍は想定外のことですし、それでもA男さん一人の責任となるのですか?」
「いえ、おっしゃる通りA男さんだけの責任ではありませんし、そもそもコロナ禍前から業績は悪くなっていました。一年前までその部署の責任者だった部長が自身の失敗をA男さんに押し付ける形でA男さんを責任者にしたのです。人一倍責任感が強いA男さんはよく頑張っていましたが、組織内では孤立していました…」
「その配置転換にA男さんは拒否出来なかったのですか?」
「それは、あの事件のことで仕方なかったんだと思います…」Tさんの声が小さくなった。
「あの事件?仕方が無いとは?」
「えぇと…」TさんはB子さんの顔を見て言いにくそうにしていた。

Tさんの雰囲気を察して、B子さんは意を決したように一つ大きなため息をついて話し始めた。
「実は一年前に夫は公然わいせつ罪で警察に逮捕されたのです。営業成績に対しての強いプレッシャーが原因らしく、退勤時に乗った電車内で下半身を露出して、そのまま警察に逮捕され…。被害者の女性客とは示談が成立したので、不起訴処分となりました。当時は大変でしたが、幸い会社は解雇になりませんでした。その後一か月間の謹慎期間を経て職場に復帰しましたが、営業部からは外されて、現在の部署に回されたのです…」B子さんの目から涙がこぼれ落ちた。
「車通勤もそのことが原因ですか?」
「そうです。逮捕されてから夫は電車に乗ることは無くなりました。自主的に車で通勤しているので、会社の駐車場は使わせてもらっていません。自腹でコインパーキングを利用しています」A男さんが車通勤をしているのも合点がいった。
「B子さん、こういう大事なことは包み隠さず話してくださいね」
「すみません…、面談のときに義母も居たので…夫が逮捕されたとき、義母はショックで寝込んでいたんです…」

一刻も早くA男さん見つけ出さないければ。自殺をする可能性もある。命を絶つことを目的に家出をした場合、ごくわずかな期間で自殺を遂げているケースが多い。
探偵は捜索を行う中で一度は家出人の死に直面する。というよりも、どうしても直面せざるを得ないのだ。家出をして行方不明になる人は自殺、事故、他殺などあらゆる命の危険に晒されている。捜索中に自殺で見つかることもあるし、長期間見つからないケースは残念ながら死亡している場合も珍しくない。それを怖いと思わない探偵はいないだろう。

翌朝、B子さんと一緒に警察署に「家出人ポスター」の掲示依頼に赴いた。これは家出人ポスターを各県の警察署に発送すれば、全国の交番に掲示してくれるものだ。印刷前に規格に沿った記載内容か確認してもらい、問題が無ければポスターの下部に担当警察署生活安全部の電話番号が記載できる。こちらが負担するのはポスターの制作印刷費(掲示する交番の枚数分)と各警察署への送る発送費だけだ。
そして、別バージョンの家出人ポスターも制作した。内容は警察用とほぼ同じだが、赤文字で『自殺する可能性があるので、見つけ次第連絡ください!』と大きく記載して、連絡先を当社の電話番号・メールアドレスに変えたものだ。これを全国のビジネスホテル・旅館・簡易宿舎、ネットカフェに配布することにした。調査員達が最新版の宿泊施設の住所を調べて順次発送した。数日後、いくつかのホテルから手紙やFAXが届いたが、あいにくA男さんに関する目撃情報ではなかった。それはA男さんや家族を心配する激励の手紙だった。こうした心遣いは本当にありがたいと思う。
同時進行でA男さんの知人・友人への聞き込み、自宅・勤務先周辺での捜索、パソコンの検索履歴、クレジットカードの明細の分析、携帯電話の通話履歴等の調査を進めた。
調査のため何度かA男さんの家にお邪魔したが、いつも娘さんは明るく振舞っていた。B子さんが落ち込まないようにと、おそらく娘さんなりに気を遣っているのだろう。その姿が逆に痛ましく、胸が張り裂けそうになった。

家出人ポスターを発送して8日目。福井県の民宿から「お送りいただいたポスターによく似た男性が一昨日から宿泊されています。ただ、マスク姿なので確証は持てませんが、髪型と目元にある大きなほくろは一致しています」と電話が入った。人違いの可能性もあるので了承して欲しいことと、民宿側から連絡をしたことを本人には伝えないことも念押しされた。
早速、B子さんに電話をしたが、昨日からパートに復帰したので携帯電話は繋がらなかった。とりあえずA男さんのご両親に状況を伝えて、僕一人で福井県に向かうことにした。車で向かおうと思ったが電車の方が二時間ほど到着が早いので新幹線・電車で向かうことにした。新幹線はコロナの影響で乗客はまばらだった。僕は逸る気持ちを落ち着かせようと車窓から流れる景色をただ眺めてた。
民宿に到着してフロントに尋ねると、A男さんは30分前に出掛けたとのこと。先にA男さんが戻ってきたら僕の携帯電話に連絡をして欲しいと伝え、レンタカーで周辺の飲食店や海岸沿いを捜すことにした。

捜索中にB子さんから着信があった。「私達が行ったら夫はまた逃げるかもしれません。重川さん、なんとか夫が帰ってくるよう説得してください!お願いします!」
基本的に探偵は家出人を説得して連れ戻すことはしない。依頼者に現場に来てもらい、探偵立会いのもとに話し合いのうえ連れ戻してもらっている。ただし、今にも自殺の危険性があるときや、家出人が未成年者や高齢者の場合は事故や事件に遭う可能性があるので、その場で緊急避難のために確保する。
B子さんやご両親が来れないなら仕方ない。ただ、説得して連れ戻すのは簡単なものではない。家出をするくらい大きな悩みを抱えている人に、安っぽい言葉をかけても応じてはくれないだろう。とにかくA男さんを見つけてしっかり話を聞かないと。それから一時間ほど周辺を捜索したが、A男さんは見つからなかった。

夕暮れどきになり、海岸沿いを捜索していると、防波堤にA男さんと背格好が似ている男性が一人佇んでいた。単眼鏡を覗いて確認すると目元のほくろの位置が一致する。A男さんに間違いない!レンタカーを停めてゆっくりと近づいた。
「初めまして、A男さん」単刀直入に切り出した。A男さんは「えっ!」と小さく声を上げて驚いた表情で僕の顔を見た。写真で見たA男さんより、ずいぶん疲れているように見える。
「け、警察の方ですか?」小さな声は震えていた。
「いえ、ただの探偵です。奥様からご依頼されて、あなたを捜しに来ました」
「探偵!?」A男さんは混乱したような、どこかホッとしたような、何とも複雑な表情で固まっていた。

「ずいぶん遠くまで来たんですね」そう言いながら僕は防波堤から足を投げ出すようにその場に座り、海に目をやった。
しばらく固まっていたA男さんは「よく見つけましたね…こんなところまで…」と小さく呟くと、僕と同じように足を投げ出すように座った。夕日が沈む海を眺めながら僕は何も言わずにA男さんの言葉を待つことにした。家を出て行かなければならない「理由」があるので、それを聞き出すことに専念した。決して無理に聞き出すようなことはしない。

2,30分ほど経っただろうか、「いろいろと死に場所を探していたんです…どうせ死ぬんなら綺麗な場所良いなと…ここの海は以前テレビで観て綺麗だなと思ってて…」A男さんが小さな声で話し始めた。僕は何も言わずに小さく頷いた。
「あの日も会社に行こうとしたんです。また辛い一日が始まるのかと思うと憂鬱でしたが、警察に逮捕されたのに解雇しないでくれた会社にも感謝していましたし。でも、会社に近づくと息が出来なくなって…そのまま家に戻ったんです。急に全てが嫌になって、何も考えずに逃げました…うぅ、もう生きていくのがしんどくて…」そこからA男さんは辛かった心境を語り始めた。二時間ほど話しただろうか、一通り吐き出した顔は涙でくしゃくしゃになっていた。僕は「うん。もう大丈夫」と、また小さく頷いた。そして、家族はもちろん、誰からも責められることはないことも伝えた。
すっかり夜になり海は真っ暗だったが、A男さんの心の奥に少しだけ明かりが灯ったように感じた。

翌朝、A男さんは広島に戻ることを決意してくれた。
レンタカーで一緒に駅まで向かい、電車の切符を購入しようとしたとき、A男さんの所持金が数千円しかないことが分かった。所持金が尽きたら自殺するつもりだったらしい。お金が尽きる前に発見できて良かったと密かに安堵した。
電車内ではA男さんは何も言わず外の景色をずっと見ていたが、広島に近づくにつれそわそわ落ち着かない様子だった。ふと、僕の視線に気が付くと、「大丈夫です。もう逃げませんから」と苦笑いをした。それでもトイレに立つA男さんがそのまま逃げ出さないか、席に戻ってくるまで気が気でなかった。

広島駅に到着してA男さんは重たい足取りでコンコースへ向かった。ゆっくり改札口に近づくと、B子さんとA男さんのご両親、2人の子供達が待っていた。B子さんは子供達と手を繋いでいた。いや、ギュッと握りしめているようだった。改札口から出て来た瞬間、娘さんは駆け寄り大きな声で激しく泣いた。やはりずっと我慢していたのだろう。息子さんはA男さんの足にしがみつき、「うーっ!…」と力を振り絞るように泣いていた。
A男さんは子供達を抱き寄せ、「ごめん…ごめんね…心配かけたね…」と声を押し殺したように泣いた。その様子を見ていたB子さんとご両親も泣いていた。これ以上A男さん家族の様子を見ていると僕ももらい泣きしてしまう。探偵は人前で涙など流さないのだ。僕はそっとその場を後にした。

後日、A男さんは会社を退社した。会社側は休職扱いにしてくれると言ってくれたようだが、A男さんは退社を決意された。
「私や家族にとって何が大事なのか。もう少し考えて仕事を探そうと思います」A男さんは落ち着いた笑顔でそう言った。もう家出をすることはないだろう。

現状が辛すぎて死を選ぶくらいなら逃げた方が良い。家出人は別の場所で全てをやり直そうとしているかもしれない。であるならば、捜し出すことは本人のためになっていない。残念ながら、探偵は家出人のために調査をしているわけではなく、あくまで「依頼者」のために調査をしている。全ては依頼者のため。家出人の意思や意向は、依頼者の意向を上回ることはない。

辛い現状に耐え切れなくて何もかも捨てて家出をした人を、捜し出すことが本当に正義だろうか、いつも葛藤がある。それでも僕はこれからも捜し続けるだろう。家出人のためになっているか否かは、探偵を辞めたあとに考えたい。