フォーチュン広島の探偵白書:被害者がひき逃げの加害者にされる

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軽微な接触事故の大きな罠(後編)

「ようやく我に返った家内が、まず私の携帯に連絡してきました。しかし気が動転していたのかどうも要領を得なかったので、警察官の方に代わってもらい、説明を聞いて話の全体像が飲み込めてきました。
車が信号のない交差点で一旦停止をしないで進入したため、左側路地より交差点内へ先に入ってきた自転車に気付かず、自転車を跳ね飛ばし、そのまま走り去って行ったひき逃げの容疑ということでした。

すぐに会社から家に戻ってみると、もう警察官の姿はなく、憔悴しきった家内がうなだれていました。家内は途切れ途切れに昨日の出来事から今日までのことを一部始終話してくれました。
その話の内容から、家内と自転車の男性の主張とでは言い分が全く正反対であり、どちらかが嘘をついていることは明らかでした。もちろん、私は家内の主張を信じますし、学校から帰ってきた息子がその話を聞くなり、『お父さん、そいつは嘘をついているよ。僕らが止まっていたところに、そいつの方からぶつかってきたんだ。傘を差していて前が見えなかったんだ。自分が悪いと分かっていたから倒れても、こそこそと逃げて行ったんだ。』と私に涙を流しながら訴えたことからも、嘘をついているのは相手側であることが確認できました。

その日の午後、事件現場で警察官と家内および息子、それに私が加わり現場検証が行われました。相手の男性については、午前中に検証を行なったと聞かされました。検証作業を通して、警察官には家内の主張が真実であると感じられたようで、立ち会いの警察官の言葉から、被害者を装う男性の主張内容が少しずつ分かってきました。その主張は『車は交差点で一旦停止せず、速度を落としただけで突っ込んできた。運転していた人は、はっきりと見ていないが、女性だったように思う。ぶつかったとき、私の自転車のブレーキが利いたために衝撃はなかったのか、転んだ自分を見ていなかったのか、車はそのまま走り去った。とっさに車のナンバーだけを覚え、病院に行ってから被害届を出した。』という内容でした。」

一連の話を聞き終わり、私がご主人にしたアドバイスは、「相手の過失を証明できない以上、奥さんの過失が問われるのは間違いなく、一貫して事実を主張し、ひき逃げではないことを訴える。」ということでした。

その後、人身事故として送検され、故意のひき逃げという形での起訴は避けられたものの、被害者の4週間の治療認定もあり、事故は奥さんの全面的な過失となりました。被害者男性に対しては心ならずも謝罪をし、3カ月の治療後、示談が成立しました。行政処分としては、免停60日間となりましたが、幸い保険は万全な加入内容だったため、金銭的な持ち出しはありませんでした。ただ、精神的にはつらい決着となってしまいました。

もし、奥さんに多少の知識があったなら、結果は違ったものになったでしょう。男性が立ち去った後、その場を離れずに、すぐに警察に通報していれば、男性は被害届を出せなかったのです。
男性は奥さんが立ち去ったことを近くから確認した後、一連の行動を起こしたのです。奥さんが先に通報さえしていれば、男性がたとえ被害届を出しても、その場を立ち去っていたことが明らかな以上、男性の主張は通りません。
逆に男性の前方不注意による過失が明らかになったことでしょう。日ごろのわずかな知識が明暗を分けたのです。

皆さんも気を付けていただきたい事例です。