フォーチュン広島の探偵白書:意外なストーカー犯の正体とは?

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統合失調症のひろば寄稿「となりのストーカー」

日本評論社『統合失調症のひろば』に寄稿した記事の原文です。

タイトル:となりのストーカー

「こんなことをする奴は絶対に許せんので、なんとか犯人を捕まえてください!」
彼は力のこもった声でそう言うと、隣に座っている彼女の横顔に目をやった。

相談に来られたのは20代後半のカップルだった。
今にも泣きそうな顔をしている彼女(以下A子さん)は皮膚科の勤務医で、その隣で熱心に今までの経緯を説明してくれた彼(以下B男さん)はA子さんの彼氏で会社員をしている。二人はスポーツジムで知り合い、交際して3ヶ月になるらしい。A子さんも綺麗な女性だが、B男さんも細身のイケメンでお似合いのカップルに見えた。
相談はA子さんが何者からかストーカー行為を受けているというものだ。

ことの始まりは今から1ヵ月前。
仕事を終えたA子さんが自宅マンションに帰宅し、郵便受けを開けると、中に色とりどりの布切れが入っていた。なんだろうかと手に取ってよく見てみると、それは女性用の下着が切り刻まれたものだった。気味が悪いと思ったが、マンションに住む子供達のいたずらだと思い、ビニール袋に入れてゴミ箱に捨てた。

それから4日後。今度は郵便受けに一通の封筒が入っていた。
赤色の封筒にはA子さんの住所・氏名が印刷されていたが、差出人の記載は無かった。自室に戻り手紙を抜き出してみると、「男に色目を使う淫乱女!必ず地獄へ落としてやる!」とパソコンで作成された文字が大きく印刷されていた。驚いたA子さんはB男さんに電話で助けを求めた。B男さんはすぐにやって来てくれて、「大丈夫だよ、俺が守るから。大丈夫」と、不安で一杯のA子さんの気持ちを落ち着かせた。

脅迫めいた手紙はその後も続き、郵便受けの中に汚物を入れられていたり、マンションの駐輪場に停めてあったA子さんの自転車のサドルを刃物で切られていたりと、いやがらせはエスカレートしていった。
管理人に相談すると、警察に被害届を出したほうがよいと言われたが、B男さんはそれには反対した。「知り合いが警察にストーカー被害の相談に行ったんだけど、犯人を探すために、職場や、友達や、関係者全員の指紋を採取されたとか、大ごとになったらしいよ」
それを聞かされるとA子さんは警察へ相談に行くのを躊躇った。職場に迷惑をかけるわけにはいかない。
「大丈夫、俺がついてるよ。しばらくはA子の家に泊まるから心配しないで。俺が必ず犯人を捕まえてやる」と、優しく微笑むB男さんが頼もしかった。

そしてついにA子さんを恐怖で凍りつかせる出来事が起こった。
郵便受けの中にいつもと同じ赤色の封筒が入れられていたが、宛名も無く封もされていなかった。切手も貼られていないので、直接郵便受けに入れられたようだ。中身を確認すると、今度は写真が数枚入っていた。写真に写っていたのは、A子さんが勤務先の病院に出入りする姿や、スポーツジムに通う姿だった。「これって、私を尾行している…」A子さんは血の気が引いた。
B男さんは「ストーカー被害の相談なら、警察より探偵がいいよ」とA子さんを連れて弊社までやってきたのだ。

私「今までの経緯はわかりました。ストーカー犯になりそうな怪しい人物はいますか?」

●元カレ
 1年前に別れた彼氏。他の女性と浮気をしていることが発覚して別れた。別れた後もやり直したいと連絡が続いたので、LINEはブロックして電話も着信拒否にしている。
●上司の男性
 バツイチの40歳。何度も食事に誘って来たり、どうでもいい内容のLINEを2,3日に1回は送ってきたりと、しつこく付きまとわれている。
●後輩の女医
 影で悪口を言ったり、変な噂を流したりと、何故かA子さんを嫌っている後輩。半年前には言い合いになった。
●大学時代の同級生の男性
 同じサークルに属しているだけで、特段仲が良かったわけではないが、突然告白してきた。お断りした後も、年に2~3回メールが送られてくる。返信はしていない。
●B男さんの元カノ
 B男さん曰く、「一年前に合コンで知り合って付き合ったけど、性格が悪い女性だったので、すぐに別れた」とのこと。
●隣の住民
 隣の部屋に住んでいる30代の男性。母親と二人暮らし。3か月前にベランダからA子さんの部屋を覗いたことがあり、管理人を通じてクレームを入れたことがある。

私「この中で顔写真がある人はいらっしゃいますか?」
A子「たぶん、隣の住民男性以外は写真があると思います。みんなfacebookをしているので」
私「隣の住民とはどんなトラブルだったのですか?」
A子「お風呂上りにベランダを見たら、隣のベランダから顔を出してこちらを覗いていたんですよ!目が合うとすぐに顔を引っ込めたんですけど。その時はカーテンを閉めていなかった私も悪かったなと思って。でも、数日後にまた覗いていて!それで、管理人さんを通してクレームを入れたんです。そしたらすぐにその男の母親が謝罪に来て」
B男「え?その男は謝罪に来んかったん?警察には言ってないの?」
A子「うん、男の方は来なかった。母親が泣いて謝ってきたから、警察には言わずに許したというか…」
私「その男性は会社員なのですか?」
A子「いえ、管理人さんの話ではその男性は定職に就いていないらしく、なんか株の売買で生活しているとか」
私「それ以降の被害は?」
A子「たぶん、無いと思います。あれ以来はカーテンを開けなくなりましたし、ベランダで洗濯を干すのも止めたので。ただ、この前、男と同じエレベーターに乗り合わせたんですが、なんかブツブツ呟いていて…すっごく怖かったです!」
B男「その男なんじゃない?犯人は!?」

たしかに隣の住民男性は怪しいが、まだストーカー犯と決めつけるわけにはいかない。しっかり調査をして誰が犯人なのかを突き止めることにした。

A子さんが住むマンションは、エントランスを抜けて、管理人室の前を通り、その横に住民用の郵便受けがある。そして、オートロックの扉を通ると、エレベーターホールへと続く。郵便受けがある場所に行くには必ず管理人の前を通らねばならず、エントランスには防犯カメラも設置されているので、不審者が容易に郵便受けには近づけない。
管理人の話では勤務中に不審な人物を見かけていないとのことだった。防犯カメラの映像も確認したが、不審者の特定には至らなかったらしい。郵便受けがあるエリアにも防犯カメラを設置してほしいと頼んだが、理事会の承認が必要になり、設置まで時間がかかるので今回は断念した。

二人と打ち合わせを行い、管理人が不在になる18時からA子さんが帰宅する21時までの3時間、マンション前で調査員達が張り込みを行うことになった。調査を実施して6日間は何も起こらなかった。それまでは週に2~3回は必ず郵便受けに何かを入れられていたのだが。

7日目にしてようやく動きがあった。
A子さんが帰宅するまでの間、不審な人物の出入りは無かったので、現場を撤収しようとしたそのとき、A子さんから「郵便受けに例の封筒が入っていました!」と連絡がきた。駆けつけてみると、郵便受けの中に赤色の封筒があった。封がされていないので直接郵便受けに入れられたようだ。手袋をして中身を取り出すと、『ずっと見張っているぞ!地獄に落としてやる!』と印刷された手紙と、A子さんの写真が入っていた。写真に写っているA子さんの顔は一部カッターで切られていた。
調査員に撮影映像をその場でチェックさせたが、不審な人物が出入りした様子は映っていない。
「やっぱり隣の住民だよ!外から不審な人物が入って来ていないのなら、犯人はマンション内にいるんだよ!」B男さんは語気を強めてそう言い放った。A子さんはショックを隠し切れない顔をしていた。

「隣の住民の可能性があるなら、A子さんの部屋があるフロアに隠しカメラを仕掛けて、隣の住民が出入りしたときに郵便受けに何か入れられているか確認しましょう」と提案して、その日は現場を後にした。
翌日、B男さんから電話があり、「調査は終了してください。やはり隣の住民が犯人だと思います。A子はこのマンションに住みたくないと言っていますので、来月に引っ越すことにしました」と、調査の終了を告げられた。犯人がストーカー行為をしている証拠までは取得したかったが、依頼者が調査を望んでいないのなら、勝手に調査をするわけにはいかない。釈然としないものがあったが、調査を終えることにした。

10日後、私はA子さんのマンションで一緒にコーヒーを飲みながらB男さんの帰りを待っていた。
B男「ただいま~…。あれ、重川さん?どうしたんです!?」
私「実はある映像をお二人に見せたくて、お邪魔させていただいたんです。A子さんからお聞きしましたが、嫌がらせ行為はまだ続いているみたいですね」
B男「ええ、あれから3、4回ほど手紙や割られた生卵が郵便受け入っていました。文面もひどいもんですよ……で、見せたい映像って何ですか?」
私「はい、実はこのDVDなのですが、一緒にご覧いただけますか?」

DVDを再生すると大きなテレビ画面にはマンションの郵便受けが映し出された。
B男「これって、ここのマンションの郵便受けですよね?」
私「はい。郵便受けがある場所に隠しカメラを仕掛けた映像です。実はあの後もA子さんと打ち合わせをして、調査をさせていただいたんです」
B男「打ち合わせ?え?A子が?」
B男さんが問いかけてもA子さんはテレビを見詰めたまま黙っている
私「ええ、私にある考えがあって。あ、今から犯人が映ります」
テレビ画面に映し出されたのは、A子さんの郵便受けに卵を入れるB男さんの姿だった。B男さんは管理人が退勤したあと、周囲を気にしながら郵便受けに生卵を投げ入れていた。
別の日の映像に切り替わると勤務先から出てくるB男さんの姿が映し出された。自転車に乗りA子さんのマンション方面に向かっていたが、途中にある郵便ポストの前で停まり、カバンから手紙を取り出してポストに投函した。その手紙を拡大すると、赤色の封筒だった。
B男「ちょっと、待てよ!重川さん、あんた勝手に俺を尾行したん?マンションにカメラを仕掛けたん?管理人の許可は取っていないよね?犯罪だよこれは!警察に通報するよ!」B男さんは立ち上がった。
私「はい。どうぞご自由に。で、これが最後の映像ですが、犯人が郵便受けに直接赤色の封筒を入れる場面を撮影しております。この犯人が着ている服は、今B男さんが着ているその服と同じですね」
B男さんは私からテレビのリモコンを奪うと電源を切った。「いや…じゃけぇ……」B男さんの声は上擦っていた。

B男「違うんよ!これは俺じゃない!こいつが俺をはめようとして!!」B男さんはA子さんを見ながら私を指さした。
A子「どういうこと?」絞り出すような声でB男さんを睨みつけた。
B男「違うんじゃッて!映っているのは俺じゃないって!信じてや!!」
A子「どうみてもあんたじゃん!もう1回見てみる?」
A子さんがリモコンを奪おうとすると、B男さんは持っていたリモコンをテレビに向かって思いっきり投げつけた。テレビの画面い白いクモの巣状のヒビが入った。
A子「あんた何しよるん!!今までの全部あんただったん?何なんそれって?」
私「ちょっと、二人とも落ち着きましょう!一旦座りましょう」B男さんの肩に手を置き、座るように促した。

私「B男さん。何故こんな真似をしたんですか?」
B男さんはA子さんを見ると、興奮した声で「お前が全然俺のことを頼りにせんからよ!お前の方が稼いでいるし、なんかいつも見下されているようで…じゃけ、初めはちょっとビビらしてやろうと思ったんよ!」と、まくし立てた。
B男「そしたら、すごくお前が頼ってきたから、もっと頼られたくなって…」
A子さんは涙をこらえた表情でB男さんを見ていた。

しばらく沈黙が支配した後、B男さんは「まあ、でも、もう解決したんじゃけ、もうええじゃん?」と、投げやりな口調で呟いた。
その瞬間、A子さんは温くなったコーヒーが入ったカップをB男さんに投げつけ、「今すぐ出ていけ!出ていかんと今から警察呼ぶよ!」と、震える声でB男さんを睨みつけた。
B男さんはA子さんを睨み返し、「出て行くよ…荷物をまとめる時間くらいくれよ」と、素早く荷物をまとめると、部屋の鍵をテーブルに投げつけて無言で出ていった。

A子さんはソファに座り俯いていたが、手が震えていた。
「いつからB男が怪しいと思っていたんですか?」A子さんの目から涙が溢れていた。
私「う~ん、警察に相談に行くのに否定的だったり、犯人を捕まえたいと仰っていたのに犯人を特定しなかったりと、少し不審ではありましたね。あとは探偵の勘ってやつで」
A子「そうなんですね…明日、警察に相談に行くんで、一緒に行ってくれませんか?撮影していただいた映像があれば被害届を出せますよね?」
私「大丈夫でしょう。先ほどまでの会話も勝手ながら録音させていただいていますし」私は上着のポケットからICレコーダーを取り出した。
A子「抜け目が無いんですね…」
私「まぁ、探偵なんで」
A子さんは涙目で笑っていた。

後日、B男さんには接近禁止命令が出た。
A子さんはやはり引っ越しを決断した。以前から誘われていた県外の美容整形外科に就職するらしい。
「今度はもっといい男を探しますよ」と、晴れ晴れとした顔で笑っていた。